2004年05月10日

あれから一年

 もうあれから一年が経とうとしている。2003年5月10日、僕が最後に海に潜った日でもあり、死にかけた日でもある。死にかけるというのは、今となってはいささか誇張表現のようにも思える。でも、実際に医者からそういうニュアンスのことを言われたし、海上保安署の人には「若かったから助かったのであって、自分達なら逝ってた」とはっきり言われた。

 今でもあの事故は鮮明に覚えている。宮古島での通算64本目のダイビング、同じ場所で過去2回潜ったことがあったし、一緒に潜る人はもちろんのこと、船の船長も別のダイビングショップのスタッフの顔も知っていた。いつもと全く変わったところはなかったし、あんなことになるなんて全く感じられなかった。嬉しいことも悲しいことも、突然やってくる。

 長々と説明してもしょうがないので、まとめて書くと、僕はこのとき水深47メートルまで潜って減圧症になった。水中で既に右半身が麻痺しており、水面に上がったときは視界が狭く、平衡感覚がなくて、意識がもうろうとしていて言語障害のような症状も出ていた。

 一緒に潜った人に船の上まで引き上げられ、病院に運ばれ、しかし治療する設備が整ってないため、さらに自衛隊のプロペラ機で沖縄本島の病院に搬送された(高度の問題で民間機は使えない)。何度か意識がとんでいるので、この辺はあまり覚えてない。引き上げられたところまでは覚えてるが、気づいたら船の上で酸素を吸ってて、次に気づいたら乗った船と違う船に乗っててそこから救急車に乗せられ(このとき初めてことの重大さを認識した)、また気づいたら病院だった。MRIなどを受けたあと診察室に寝かされ、次に気づいたときは沖縄本島の病院のチャンバーの中にいた。あまりうまくしゃべれなかったことを記憶している。

 それから4日間ICUに入ってたけど、ここまでについてもあまり記憶がない。頭がまともになってきたのは5日目HCUに移されてからだった。でもそのときまだ右足も右腕も、全く動かない状態だったし、さらにそのあとも本を読もうとしても全く頭に入ってこなかった。その後個室に移され、まずはちゃんと本が読めるようになり、徐々に手足も動くようになってきた。なんとか歩けるようになったのは10日後ぐらいだったと思う。そこからは回復が早くて、その数日後には外出許可をもらって、見舞いに来てくれたダイビングショップのスタッフに外に連れ出してもらったりした。順調にそのまま退院となるはずだったけど、手足にしびれが出てきたため結局1ヶ月強入院していた。

 治療の関係で開胸手術をする可能性があった。一生杖をついて歩くかもしれなかった。これまでのような高度な思考ができなくなるかもしれなかった。それを考えれば、今自分がこうしてこれまでと何一つ変わらない生活を送っているのは奇跡としか言いようがない。脳の方は完全に元通りになってないので、まだ手足のしびれ・ふるえは多少残ってる。これは年単位の回復になるだろうと言われてて、多少良くなってきている気はするものの、正直どうなるか全く分からない。いつか消えるかもしれないし、一生残るかもしれない。最初そのことを告げられたときはショックだったけど、受けいれていくしかない、また受け入れていかなければならないとも思っている。この後遺症と共に、僕は一生あの事故のこと、そのとき触れた人々の優しさを忘れない。両親はほとんどの週末見舞いに来てくれたし、宮古のショップの人達や、昔そこで働いてて沖縄本島に移った人も何度も見舞いに来てくれた。入院期間中の3分の2ぐらい、誰かしらが来てくれてた。

 そして僕は医者にダイビングを止められている。今回の減圧症のことは関係なく、自分の体が原因。元々潜ってはいけない体だったみたいだ。選択肢が1つ消えるというのは、本当に辛い。「命をかけてまでやるスポーツじゃない」と医者は言う。それが本当なのかどうかは、僕には分からない。本当に危ないのかもしれないし、これまで平気でやってこられたんだから、別にどうってことない気もする。

 今でも1ヶ月に1回ぐらい、自分が海に潜っている夢を見る。その風景はやっぱり見慣れた宮古島で、一緒に潜る人も見慣れたスタッフ。僕は宇宙にいるかのように、重力の縛りから解放され水中を動き回る。慎重に息を吸い、慎重に吐く。でも、それが夢だと気づく。その夢を見るのはつらいけど、悲しくはない。涙は出ない。

 そして最近、まだ潜れるのだと自分自身に言い聞かせている自分がいる。今まで何でもなかったのだから…そんなことばかりが頭に浮かんでくる。僕にダイビングの楽しさを教えてくれた人と、また一緒に潜れたらなと思う。それで死んでもいいとすら思ってる。でも僕は生きるし、潜らないし、その人には会えない。

 もう少し年老いて、もしそのとき自分に背負うべきものが全くない状態だったら、また宮古に潜りにいきたいと思っている。このときは全てを捨てる覚悟をして。そのとき後遺症は消えているだろうか。まだ僕が利用していたダイビングショップは残っているだろうか。海の素晴らしさを、さらに大げさに言うと生きることの楽しみを、教えてくれた人達はまだ海に潜り続けているのだろうか。

Posted by take at 16:26 | TrackBack(0)
Comments
Post a comment









Remember personal info?