2004年10月20日

for all my loves

 村上春樹の『1973年のピンボール』に、こんな一節がある。


 「僕は不思議な星の下に生まれたんだ。つまりね、欲しいと思ったものは何でも必ず手に入れてきた。でも、何かを手に入れるたびに別の何かを踏みつけてきた。」
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 「・・・そしてこう思ったんだ。もう何も欲しがるまいってね。」


 僕自身が不思議な星の下に生まれたのかどうかはわからない。でも、これまでに程度の差こそあれ、僕も欲しいと思ったものはほとんど全てを手に入れてきた。どういう形であろうとも、最終的には思い通りの点に到着した。そしてここにあるように、その度に別の何かを踏みつけてきた。すぐにそのことを認識できるものもあれば、そうでないものもあった。いずれにしろ、それらは僕をうんざりとさせた。何も求めたくないと思ったことがこれまでに一体何度あったことだろう。
 しかし僕の中では、人はどこまで行っても一人なんだという思いと、誰かを愛して誰かに愛されたいと思う気持ちとが、まるでカバンに入れっぱなしにしておいたイヤフォンのコードみたいに複雑に絡み合っている。これまで、それをほどく作業を一生懸命してきたつもりだった。ある時はそれを自らの手で意図的に絡めたりもしたし、ほどこうとして余計に絡まったこともある。何度も繰り返しほどいているうちに、その作業に少しずつ慣れてきているような気もする。でもそれはたいしたことではない。結局、またカバンにいれたら絡まるのだ。
 人はどんなことからでも何かを学べるとしよう。前に進んでいるかどうか、それが生産的かどうかは別として、少なくとも何かしらのことは学べる。僕はそう信じたい。そしてこれまでにわかったのは、僕はどこまでいってもこの作業から逃げられないということだ。広大な世界からすれば、自分が何をしようとも、それは不確かな動きをするほんの一つの原子でしかない。僕が今この場で何をして、どういうことを思っていようとも、星が一つ潰れようとも、君の生活は何一つ変わらない。例えばそういうことだ。君のために一体僕は何ができるだろう。
 これまで僕が踏みつけてきたもののために、傷つけてきた人たちに対する償いのために。君が流してきた涙のために、溢れんばかりのその笑顔のために。きっと、僕にだってできることがあるはずだ。もしもかすかな救いというものが存在しているのなら。

Posted by take at 17:23 | TrackBack(0)
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