角松敏生どん底三部作


Introduction

 僕と角松敏生との出会いは、16歳の夏。当時バイト中に聴いていた、FMから流れてきた伸びのある歌声に僕は一気に魅せられた。最初の印象はやたら賑やかなバック、伝わってくる強いメッセージ。そして、その時ちょうど行われていたツアー(“He is back for the future”)を偶然見にいくことができたことが、その後の運命を決定づけた。
 以来、僕は音楽のほとんどを角松を中心に学んできた。彼の言おうとしていること、音楽を、必死に理解しようとし、時には全面的に無条件で受け入れ、時には真っ正面から対立した。そのことが現在どのような結果に繋がっているのか、それがポジティブなものなのか、ネガティブなものなのかはわからないけれど、音楽を心から愛することができるようになったというのは、彼によるところが大きいと思っている。
 今の角松は、あくまでも自分がリアルタイムで生きることにこだわっている。それは彼の作品を聴けば一目瞭然だ。そしてそのような姿勢は、たまに己の過去の作品を否定しているようにも感じる。だがしかし、いいものというのは、何年経ってもいい。そのことを胸に、彼の最高傑作の3枚を紹介していこうと思う。角松はこの3枚を作り上げ、音楽活動を凍結させた。全てを捨てた。言い換えれば、この3枚に角松の全てがつまっている。

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ALL IS VANITY

 作品自体のレベルとしては、おそらく角松史上最高傑作と言っても過言ではないだろう。まるで洞窟の奥深くで、ひっそりと長い時を経て形成された鍾乳洞のような曲が揃っている。そこに偶然というものは存在せず、あくまでも角松の求める必然によって出来上がった。
 そしてこの中のいくつかの曲は、僕らの心を深くえぐる。負と正面から向き合った、辛辣なメッセージ。しかしそれをまるで称えるかのようなバックミュージシャン達の演奏により、いきなり真実にたどり着くことはない。全てが複雑に絡み合った嘘によって塗り固められている。完全なフェイク(偽物)は、ときに本物をこえる。
 そしてその先に存在する、たった一つの真実。

清楚かでありつづけることは
愚かしいことと知ったならば
君は汚された街にも咲ける花になればいい
そして何も望まずにいられたら
きっと愛しあえる
そして生まれ変わる
-from "ALL IS VANITY"


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あるがままに

 前作“ALL IS VANITY”の流れを引き継いでいるが、しかし前作のような混沌とした雰囲気はない。ある種の開眼とも受け取れるピュアな雰囲気が、ウィスキーに溶け込むロックアイスのような透明さが、全体を支配している。
 このアルバムは、ある特定の女性一人のためだけに作られた作品であるという。しかしそれがあまりにも強く僕らの心に響くのは、角松のあまりにも一途な想いによるものだろう。「あるがままに」で良しとしているわけではなく、「あるがままに」でしか君に接することができない。そんな悲しみ、苦悩を深々と綴っているだけの作品だが、なぜかひどく心地よい。
 個人的に一番好きなアルバム。今でも心の琴線に触れ続けている。

遠く消え行く過去は
今という未来を創った
君と僕そのもの
あるがままの“瞬間(いま)”を
あるがままの過去(きのう)とともに
ずっと愛し続けて行こう
-from "あるがままに"


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君をこえる日

 これは“あるがままに”をよりダイレクトにした作品。かつてないほどの想いが、どうすることもできないという空しさと共に堂々と込められている。
 ただし、問題点というか、それがこのアルバムの良さなのかもしれないが、角松は“君”を越えきれていない。まだ忘れられていない。一方的な愛、そしてどこにもいかない想い。完全なる絶望。その果てに待ち受けるものは何なのか。角松はそれを知ることが怖くて歌うことをやめた。いや、知っているからこそ、目を背けないわけにはいかなかったのだろう。

この心の痛みがいつか癒えて
望みも予感も消えて
僕が君を忘れる日がきたなら
きっと君をこえていける
I'll be over you
-from "君をこえる日"


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take(take@blue-jam.com)
1981年12月23日生まれ
横浜市の端に在住
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強く、やさしく、フェアに

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