Prayer/角松敏生


prayer.jpgPrayer/角松敏生

 角松のデビュー25周年を飾るアルバム。記念碑的なアルバムを出さず、あくまでもオリジナルアルバムにこだわるというところが角松らしい。色んな意味で彼の真価が出た1枚だと思う。

 個人的には昨年に出た『THE PAST&THEN』は企画色が強かったし、『Fankacoustics』や『Summer 4 Rhythm』もオリジナルアルバムという感じがあまりしなかったので、2002年の『INCARNATIO』以来のオリジナルアルバムというような気がしてならない。バンドがシンプルな構成だった前3作に対し、やたら豪華なこのアルバムはいわば「総合アルバム」。どちらもアルバムであることには変わらないのだけどね。

 そのことを証明するかのように、コンセプトの一貫性として秀逸だった『TIME TUNNEL』や『INCARNATIO』と同様、イントロダクションの<UGAM>からそのまま<Movin'>へ。本当にびっくりしたよ。いきなりスティーブ・ガッドじゃん!と。前々から参加することはわかっていたのだけど、てっきり1曲のみだと思ってたんですね。マーチングリズムのタイコ、跳ねまくるスネア。世界でオンリーワンの存在、スティーブ・ガッド。曲も無理することなくピタリとはまっている。いきなりドラムソロがあるし、森俊之はうねりまくりだし、今剛はべらぼうにうまい。殊勲者は小林信吾のピアノ。

 続いてちょっと落ち着く<You made it>。ファンクな色は『Fankacoustics』で耳に馴染んでいたせいか、この手のナンバーはもうお手の物のように感じる。違うのはやはりスティーブ・ガッドの存在、そしてホーン4本という祝祭構成。豪勢だなあ。

 アルバム前半最大の見せ場だろう<恋の落とし穴>。甘そうなこのタイトルとは裏腹に、爽快なアップテンポナンバー。スティーブ・ガッドにアンソニー・ジャクソンのリズム隊とバチバチです。こういう綺麗なアップテンポをやってくるところが、角松の変わったところかなとも思う。曲の終盤は完璧なリズム隊に今剛のギターソロ、角松のコーラス。これが真骨頂。

 <Still know nothing at all>は一転してゆったりとしたバラード。歌詞が新たな世界へと進み出したのは前からと同じで、どん底三部作なんかはすごく個人的な垂直方向の想いがあったのに対し、今は水平方向にやすらかな想いが広がる。やはりこれは好みがわかれるだろうなと思う。小池修がサックス・ソロ。生粋のフュージョンプレーヤーという感じがするのだけど、編成を少なくしたバンドにはちょうどいいのかな。

 25周年ライブの時に披露された<かなし花>。沖縄音楽のテイストを、角松のポップスにとりいれた曲。アルバム全般的にこういうテイストで行くのかなと思っていたらそうでもなかった。三線とコーラスだけで"沖縄"になるのは、不思議と言えば不思議。梶原順のアコギはやっぱりいいなとしみじみ思う。ここまでがスティーブ・ガッドのドラム。5曲も彼が叩いた日本人アーティストのアルバムってこれまで他にあるのだろうか?

 ここからドラムは江口信夫に交代。アルバム参加は『The Gentle Sex』以来で6年半ぶり。音を聴く前はなぜ今さら江口さんなんだろうと不思議だったのだけど、繰り返し聴いているうちにだんだんわかってきた。

 一発目の<日照雨>は気持ちの良い夏の幕開け。江口+山内薫のリズム隊。渋い。森俊之のアナログシンセ(Moog Voyager)が絶妙で、この辺りはキーボード3人でやった"Tripod"から吸収したところなのかなと思う。ホーンも5人、本田雅人はシンセサックスソロ。そしてやっぱり今剛のギターソロ。うまいなあ。曲のクレジットには実に17人の名前が並ぶ、お祭りムードたっぷりの1曲。

 <アイシテル>はなんか今の角松そのままの気がする。「愛してなくても」「愛されなくても」それでいいんだと。深い歌詞に胸が痛みます。言葉を託したアコギのソロは角松自身。

 情景がすぐに思い浮かぶ<Mannequin>。夜のショーウィンドウにあやしくライトアップされたマネキンを見て思いついたに違いない。それをこのアルバムの中で最もキャッチーなナンバーにしてしまうところが面白い。こっちがいくら笑いかけても無表情なマネキン。いつか君を振り向かせることができたなら。

 打って変わってコーラスの千秋、ピアノの小林信吾と3人のみの<黙想>。歌詞が重いです。こういう方向にいってしまう角松はどうなんだろうなという気持ちはあるけど、それも仕方ないのかと納得もしてしまう。どこかにある出口がいつか見つかってくれれば、せめて救われるのだけれども。

 タイトル曲の<Prayer>。絶対いつかやると思ってた沖縄(宮古)の方言でのラップがここで披露。何を言ってるかさっぱりわからない・・・。歌詞も沖縄っぽい気がする。自然の恵みと生きていることに感謝して、祈り続ける。いつまでもこの世界が変わらずに続きますようにと。

 シングルカットされた<Smile>のアルバムバージョンは印象変わらず。あえてここに収録する必要はなかったのでは?と思う。ミュージシャン編成の問題はあるにしろ、シングルのカップリングだった<青い水から>の方が合ってるような。

 最後、ボーナストラックの<初恋>。3年前に横浜アリーナで行われた20周年ライブリベンジの音源。往年の名曲にホーンアレンジが入ってすごくいい。故青木智仁に捧げられたもので、複雑な想いもあるのだけど、できる限りこうやって歴史に証拠として残してもらいたい。ポンタさんのドラムも絶妙で、本当にいいライブだったんだよなあ・・・。まだ青木さんのソロを聴くとグッと胸が熱くなります。

 というわけで久々にAOR全開のアルバム・・・AORだよな、これは。角松がAORを解釈したらこうなるという1枚。問題は、今秋からのツアーでスティーブ・ガッドの曲を江口信夫はどう叩くのかということ。ポンタさんが真似して叩くとかはなしかなあと思ってしまうが、中途半端な出来にはしてこないだろうからアレンジに期待。

 この数年の集大成になったような1枚。まさに角松敏生のデビュー25周年を飾るのに相応しいアルバムだろう。これが今の角松が出した一つの答え。ここからさらにどんな音楽へと向かうのか、この作品を聴いていると、自然とそんなことも気になってくる。


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