モノづくりと失敗


 大好きな『宇宙兄弟』の話の中で、こんな一節がある。

 「モノづくりには…失敗することにかける金と労力が必要なんだよ」
 「本気の失敗には価値がある」(11巻より)

 たとえ結果的に失敗に終わってしまったとしても、本気で取り組んだのであれば、それは価値のあるものであり、決して蔑まれるようなことではないという意味(だと思う)。これを初めて読んだ当初は、「なるほどね、うまいこと言うな」と感じていたのだけど、何かのきっかけで考えが180度変わってしまった。

 我々日本人は、失敗から成功に導かれた話を美化する傾向にある。映画化された「はやぶさ」にしても、もし様々なトラブルがなく、予定通り順調にそのまま地球に戻ってきたとしたら、ここまで騒がれることはなかったはずだと思う。もちろん小惑星に着陸して、そのサンプルを採取し、地球に戻ってきたというのは、科学的に素晴らしい成果だ。ただし一連のトラブルに見舞われたのは、モノづくりの観点からすれば、探査機の不具合という言い方もできなくはない。

 モノづくりにおいて本当の成功というのは、そうした不具合なく、すべてのミッションを想定内のうちに終えること。要求された性能を満足する製品を造り上げること。これはものづくりに携わる人間なら、誰もが思っているはず。お金をもらって時間をかけて開発し、想定外のことが起こったから不具合が生じてしまいましたと弁明しても、客に認めてもらえない。

 だから僕らモノづくりの人間は、決して失敗することではなく、本気で失敗しないことを考える。あらゆるケースを想定し、失敗しないことにはあらゆる金と労力を惜しまない。想定外のことが起こったら、それはもう技術者としては負けを意味する。次があるなんて思ってはいけない。かつて自分が携わったプロジェクトで、製品を納入数分しか製造しない計画を立てていたら、それではダメだと教えられたことがある。万が一のことを考え、たとえ1つ2つダメになったとしても納入する品はすべて動作させる、そのためには絶対にスペアが必要となると。予算的にも時間的にもスペアを作ることは負担となるが、しかし納期間近にスペアがあるという安心感は絶大だった(結局このスペアを使わずに済んだ)。研究そのものが目的であるなら失敗でも評価されるのかもしれないが、モノづくりでは失敗しないことこそが至上命題。

 そして技術者があれこれ考えた努力とか苦労とかいうのは、世間一般には見えなくていい部分だと思う。そういうのは後々、酒の肴としてでも語ればいい(鬱陶しがられるかもしれない)。

 モノづくりのエンジニアとして本当に誇れることというのは、成功させることに命を懸け、失敗なく成功のうちに終わらせること。この一点。極端なことを言えば、失敗なんてしないに越したことないし無理にする必要もないのだ。


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