深い眠りの中にいた。その眠りからは、決して僕一人で覚めることはできない。誰かが僕を起こそうとし、そして僕も起きたいと思う。その2つのタイミングがピタリと一致しなければ、僕は眠りから目を覚ますことができない。
眠りの世界にいる僕は、流れてくる音楽に耳を澄ませ、誰かが置いていった本を読み、気が向いたら研究をする、そんな生活を送っていた。それはそれで悪くなかったけれど、それは失われた時間なのだということを、いつからかはっきりと認識するようになった。そんな時間の流れではいけないということを。
もしかしたら僕は二度と目を覚ますことができないのではないか。そんな風に、静かな暗闇で怯え続けたことが何度もある。「もうダメなのかな」。諦めるしかないけど、諦めきることもできない。そんな気持ちをずっと抱えてきた。ずっとずっと、本当に長い間。
それは突然のことだった。目に映る景色との距離が一気に近くなり、世界が僕を飲み込むかのような感覚に襲われた。誰かに肩を揺すられているのだと気づいたとき、僕は海の中にいた。「起きて・・・」という声がする。意識が働きだし、光を感知する。僕はゆっくりとまぶたを上げた。そこにいたのはアキだった。
薄くぼやけていた世界が徐々に色彩を帯びてくる。目の焦点が合い、アキの顔が、僕の記憶していた顔と一致した。「会いたかった」。喉まで出かかったその言葉を、僕はなんとか飲み込む。雨がしとしとと降り注いでいた。
「行きなさい」とアキが言う。「君が求めれば、また私が起こすから」。
僕はそっとうなずき、いつも通りに大学へと向かった。
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